朝が来るまで

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「あ……っ、ん」
 身体中を舌と指でまさぐられ、嶋田は耐え切れずに声を上げた。熱をもって十分に育ちきったものは、今まさに紺野の口の中へと迎え入れられようとしている。
「や……あっ」
 ぬるりと長い舌にいざなわれ、嶋田の逃げ場はどこにもなくなってしまう。十分に張り詰めていたはずのものが、生温かい粘膜の中で、さらに熱く、固く育てられる。気が狂いそうな気持ちよさの波に浚われながらも、嶋田は、まだ触れられていない場所が紺野を求めてひくついているのを感じていた。
「はる……き」
 何とかしてほしいと彼を呼ぶ。
「……いいか?」
「いい……あっ、あ、あ!」
 だが、いいと言われて、紺野の舌の動きがよりいやらしくなった。このまま果ててしまいたい焦燥感と戦いながら、嶋田はもう一度、紺野を呼んだ。
「春樹……」
 彼の手を取り、そっとそこへ導く。彼の指がそっと触れただけで、入り口が歓喜して収縮を繰り返す。
「――いいのか?」
 おずおずと紺野は問う。嶋田が頷くと、だが、紺野は困ったような顔をした。
「俺、久しぶりで余裕ないから……おまえのこと傷つけてしまうかもしれない。その、ゴムとか、ローションとか……」
「ないよ。でも、そんなのいらない」
 紺野を遮って、嶋田は泣きそうな声で言い放った。
「おまえが十分に濡らしてくれれば平気だし、それに、中に出せばいいんだ。あの頃みたいに……」
「博隆おまえ……人を煽るにもほどがある」
 嶋田の潤んだ目は、明らかな情欲に濡れていた。その目を見てしまったら、もうあとには引けない――紺野は嶋田をうつ伏せにすると、腰を高く持ち上げた。
 十年前に自分を虜にしたその場所に、うやうやしくキスをしてから、ゆっくりと舌を這わせる。舌の動きに合わせて揺らぐ腰と漏れ出す声に、紺野はしばし酔いしれた。
「いい、春樹……あ、もっと……もっと奥まで……」
 十分にほころんでから指を埋めると、嶋田は背中を仰け反らせた。中ももっとほぐして蕩かそうと思っていたのに、そのしなる背中が紺野に火をつけた。
 指を抜き、その頼りなさに戸惑う腰を捕まえて、自分自身を夢中で埋め込む。熱い襞が自分を拒否せずに、奥へ奥へと連れて行こうとする。十年前と変わらず、嶋田の中は熱くてうねっていて、腰が抜けそうなほどに気持ちがいい。ただ名前を呼んで腰を揺すりたてると、嶋田はすすり泣くような声で応えた。
「あっ、はる……き。春樹――」
「博隆――愛してるよ。ずっと、十年前からずっと、愛してる――」
「ああっ……顔、顔見たい……顔、見せて……春樹、顔見せて――」
 嶋田は自ら身を捩り、二人は繋がったままで向き合った。
 繋がったところは、離れまいとして互いに絡み付いている。その強烈な快感に身悶えながら、嶋田は紺野の顔に手を伸ばした。
 刹那、嶋田の顔に熱い雫が降る。
 嶋田を見下ろした紺野の目から、その雫は二滴、三滴と嶋田の顔へと降り注いだ。
「春樹――」
 驚いた嶋田が呼びかけると、紺野はぼろぼろと泣きながら声を振り絞った。
「嘘じゃ……ないよな? 今度は嘘じゃないよな? あの時もおまえ、そう言って……でも、目が覚めたら、朝になったら、おまえはどこにも居なかった……」
 泣いている。
 紺野が泣いている。十年前の記憶に怯え、また置いて行かれるのではないかと、子どものように泣いている――。
「嘘じゃない――」
 嶋田は紺野の頭を抱え込んだ。その髪に頬を擦り付け、ぎゅっと強く抱きしめる。
「このまま抱き合って、シャワーを浴びたら二人で眠るんだ。目が覚めたら、僕は朝食を作るよ。何でも、おまえの好きなものを作って、一緒に食べたらコーヒーを飲んで、それから買い物に行くんだ。おまえの身の回りのものを買って、生活に必要なものを揃えて、もうホテルになんか戻らなくていい。おまえはずっとここにいるんだ。僕ももう、どこへも行かない。ここにいる。だからおまえもずっと、ここにいるんだ――」
 なあ春樹、呼びかけると、嶋田の腕の中で紺野は小さく頷いた。

 あの日、止まった時間をここから始めよう。
 取り戻すことはできないけれど、やり直すことはできるから――。
 でも、今はせめて、こうして抱き合っていよう。お互いの境目がわからなくなるまで、溶け合っていよう。

 朝が来るまで。

END


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